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たゆたう草舟

第2章 余計なお世話

 
「あまり近付くと、危ないですぞ」

「大丈夫ですよ」

 私は水際にしゃがむと、草を一本抜きました。そして隣に座った信明様に、草舟を作って見せてみました。

「不思議ですね、出来たばかりの場所なのに、あの時の景色とはまるで違うのに……懐かしい気がします。私は昔、戯れでこのように葉っぱのお舟を作った事があるのです」

 大きくなった今なら、あの頃より立派な舟が出来たでしょうか。しかし舟を、水に浮かべる事は出来ませんでした。

「お葉殿……っ!」

 信明様が私を抱き締め、縋ったのです。あの頃とは違う、苦しくて痛々しい抱擁に、私はつい彼を突き飛ばしてしまいました。

「いやっ!」

 ですが彼は私を押さえ込み、胸の中に閉じ込めます。力いっぱい暴れても、それは何の意味も成しませんでした。

「一目見たその時から、愛しております。どうか、拙者と夫婦になってくだされ!」

 逃げられないという恐怖からか、私は信繁様の面目や、櫻井家の事など頭にありませんでした。ただ、八年前の記憶が乱暴に塗り替えられるのが怖くて叫んでしまったのです。
 

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