たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
「嫌ですっ、離して!!」
すると信明様は、私を地面に倒し馬乗りになりました。怒っているのでしょう、私の腕を押さえる力は強く、私は痛みに涙を零しました。
「……もしや、他に好いた男でもいるのですか? 信繁様からは、そのようには聞いていない!」
「好いた男……?」
私の頭の中に浮かんだのは、草舟を見送り涙する昌幸様でした。今はとても怖くて仕方ないのに、あの時は怖くなかったのです。縋られたその時、私は彼を支えたいと思いました。
それが、恋。人を好きになるという事。私が今までどの異性にもときめかなかったのはそのためだと、ようやく私は気付いたのです。
「やはり、他に男がいるのですか」
私は何も答えていないのに、彼は心中を察してしまいました。そして私の着物の帯に手を掛けると、地を這うような低い声で告げたのです。
「拙者は、あなたが十の頃から愛していたのです。いつ目を付けたかも分からぬ他の男に奪われるなど、許しません」
一方的に見られていただけで、なぜそのように言われなければならないのでしょう。しかし着物は乱され、私の肌は露わになっていきます。この人の餌食にならずに済む方法を、私は持ち合わせていなかったのです。