たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
そしてそれを止めたのは、私でも彼でもありませんでした。
「家中で狼藉とは、良い度胸をしているな」
その声は、真田に仕える者ならば誰しもが知るものでした。彼が信明様の首根を掴むと私から引きずり下ろすと、信明様は青ざめ平伏しました。
「ま、昌幸様! どうしてこのような所へ……」
「それはこちらの台詞だ。確かお前は、山田の小倅だな。女に乱暴するような男ではなかったと記憶していたが」
「それは、その……」
「気分が収まらないというのならば、侍女ではなく、町まで向かい遊女でも買ってこい」
昌幸様は懐から金子を投げつけると、手を払い立ち去れと指示します。信明様はしばし土を引っかき唇を噛んでいましたが、ばらまかれた金子を拾うとようやくこの場を去りました。
昌幸様はそれを見送ると、固まって動けない私に目を向けました。
「お前は……」
昌幸様は一瞬目を見開き、口をつぐみました。もしや私を覚えてくださったのではと、私は期待に胸を膨らませました。
「……あまり安易な気持ちで、人気のない場所に男と来るものではない。たまたま私が気晴らしにここへ来たから良かったものの、どうなっていたか分からないぞ」