たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
「この先誰が何をしようと、一番に触れたのは私だ。その事実は、何があっても変わるまい」
「……はい」
「ならば、泣く必要はもうないな」
昌幸様は立ち上がり、お仕事へ戻るのか去っていきます。が、二、三歩歩くと、こちらを振り返り私に訊ねました。
「立てるか?」
あまりに突然の出来事に、私は腰が抜けてしまい動けませんでした。
「大丈夫です、少し休めば……」
すると昌幸様は私の手を引き、横抱きにします。主君に抱えられるなど無分別の極み。私は慌てて下りようとしますが、昌幸様の力は強く、しっかり抱かれてしまいました。
「このまま置いていったら、いつ第二、第三の私が現れるとも知れない。そのように艶めいた顔の女を見れば、男は皆野獣になってしまうからな」
自分がどのような顔をしているかは分かりませんが、私は真っ赤になったままいつまでも戻らない頬を押さえます。昌幸様はそんな私の唇をさらっと奪うと、何事もなかったかのように歩き出しました。
「お前、名前は?」
その道中、昌幸様は思い出したかのように訊ねました。
「よ、葉と申します……」