たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
主君が一介の侍女を抱きながら歩いているのですから、私達は人目を引きます。しかし昌幸様は様々な視線には慣れていらっしゃるのか、平然と足を運んでいました。
「ようやく、お前の口から名前を聞けた」
「え?」
「お葉、お前は――」
しかし昌幸様の言葉は、向かいから走ってきた信繁様に遮られてしまいました。
「父上! 探しておったのですよ……っと、お葉!? なんでお前がここにいる」
信繁様は私に気付くと、眉をひそめ昌幸様に指を突きつけます。
「父上、まさかお葉に何か無体でも働いたのでは? これは山田信明殿の妻となる娘です、手出しはなりませんぞ」
「山田の妻? ほう、それは興味深い話だ」
ため池で何があったのか知らない信繁様は、親切心で口が進みます。私は笑顔で説明を聞く昌幸様に空恐ろしいものを感じ、つい口の端を引きつらせてしまいました。
「――といった次第なのです。信明殿は文句の付け所のない武士、きっとお葉も気に入ると思い、一足早く父上のお耳にも入れようかと探していたのです」
「ほうほう、つまり、事の発端はお前という訳か」