たゆたう草舟
第2章 余計なお世話
昌幸様は私を下ろすと、信繁様に笑顔のまま拳骨を食らわせました。そして一転、修羅のようなお顔に変わると、周りの目も構わず信繁様を叱りつけたのです。
「この馬鹿者! 山田の小倅は、私もそろそろ嫁の入り時だろうと縁談を用意しておったのだ! それを勝手に見合いだと? 先方が怒り破談となれば、真田の外交にも影響するのだぞ!」
「え、縁談!?」
「相手は徳川家の家臣、須貝殿の娘だ。主君を転々と移り渡る私達真田にとって、この婚姻は徳川家に忠誠を示す材料になる。家柄も申し分ない、断る余地のない話だ」
「しかし、信明殿は昔からお葉一筋で……」
信繁様は反論しますが、昌幸様の一睨みで口をつぐんでしまいます。
「信繁、今のお前に相応しい言葉がある」
「は、はい」
「余計なお世話だ」
昌幸様はそう言い捨てると、私の手を引き城の中に入っていきます。しかし、信明様の縁談は私も初耳。知らなかったとはいえ謝らなければと、私は引っ張られながらも頭を下げました。
「申し訳ありません! 私のような者が、見合いなど出過ぎた真似を」