たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
昌幸様が私の想いを知れば、同じように思うのでしょう。そう考えると、滑稽な自分に涙が溢れてきました。
「お葉殿……泣かせるつもりではないのです。申し訳ない」
「いえ……私こそ、申し訳ございません。そのお話、お受けする訳にはいきません。本当に、ごめんなさい……」
私は着物の裾で涙を拭うと、たまらず逃げ出してしまいました。が、信明様は私の腕を掴むと、僅かに暗い底のある瞳を向けて訊ねたのです。
「それは、好いた男のためですか?」
私は、首を横に振ります。操を立てたくて断った訳ではありません。
「その男が誰か、拙者に教えてはもらえないでしょうか」
私はその問いにも、首を振ります。とても恐れ多くて、名を挙げる訳には参りませんから。
「もしやその男とは――」
まだ何か話があるのかと、私が焦燥を覚えた時。彼の口から出た名は、予想を超えた者でした。
「信繁様、なのでしょうか」
「え?」
私は虚を突かれ素っ頓狂な声を上げてしまいました。信繁様は、私にとって幼なじみ。男性を意識した事など、ただの一度もなかったのです。