たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
今まで首を振るしかなかった私も、これには声を上げざるを得ませんでした。そのような誤解を受ければ、信繁様にご迷惑が掛かるのですから。
「ち、違います! 信繁様は、兄のように良くしてくださるだけで……そのように大それた思いは、一欠片もありません!」
「信繁様は当主昌幸様の御子息、そう言うしかないのは分かっています。強く否定するその事が、気持ちの証ではないのですか」
確かに私が信繁様を好きだとしても、同じように否定するしかないでしょう。しかしそれでは、初めから答えは一つしか決められていないようなものです。
「本当に違うんです!」
「違うと言うならば、誰を好いているのですか! 他にいると言うのなら、名前を挙げられるでしょう!」
「――なぜそのような事を、あなたにわざわざ話さなくてはならないのです!」
名を挙げろと言われると、私は心で恋心を否定しなければなりません。実らない想いだと改めて向き合わなければならない苦しさに、私はつい彼を怒鳴りつけてしまったのです。
「――そこまで頑なとは、やはり名を挙げられぬ身分の方が好きなんでしょう。当主の御子息である、信繁様を」