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たゆたう草舟

第3章 誤解と裏目とまた誤解

 
 否定しても決めつけられ、かといって肯定する訳にもいかず、私は非常に困惑しました。黙っていれば図星だと思われたのか、ますます信明様は顔を歪めました。

「……嫌いです」

 纏まらない頭は、後先考えず私の口を動かしました。

「信明様のような方は、嫌いです! もう私に、関わらないでくださいっ!!」

 ぶつけた言葉に、私の腕を掴む彼の手の力が緩みました。私はその手を振り払うと、どこへ向かうとも知れずに駆け出したのです。

 ただただ、私は苦しかったのです。そして、腹立たしくもありました。彼は私の鏡、ならば死んでも秘めた気持ちは口にすまいと、心に誓いました。知らない相手に想いを打ち明けられても、迷惑がかかるだけと身を持って知ったのですから。

 そして私は、あまりにも配慮がありませんでした。鏡である彼に、衝動的に酷い事を言いました。仮にその言葉を、昌幸様から私にぶつけられたら。私はどれだけ傷つくか、想像できていなかったのです。

 気が付けば私は、ため池の前に来ていました。懐かしい雰囲気、甘い思い出のあるそこに、無意識に縋りたかったのかもしれません。
 

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