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たゆたう草舟

第3章 誤解と裏目とまた誤解

 
 するとそこには、横たわる人が一人。私はその人の顔を覗き、思わず声を上げてしまいました。

「昌幸様っ……」

 彼は唇に人差し指を当てて私を制すると、隣を指差します。私がそこに座ると、昌幸様は上半身を起こしました。

「どうやらお前も気が付いたようだな。この辺りは怠けるにはちょうど良い場所だと」

「あの、いえ……決して怠けていた訳では」

「なに、怠けているからと言って叱ったりはしない。なにせ私も、同罪だからな」

 昌幸様はあくびすると、ぼんやりとした目でため池を眺めます。うたた寝でもしていたのでしょうか。

「昌幸様は、よくここにいらっしゃるのですか?」

「ああ。当主の仕事は体力も神経もすり減るからな。要領よく休まねばやってられん」

 平たく言えばただの怠惰ですが、昌幸様が言えば正当な気がします。私が頷けば、昌幸様は不意に表情を曇らせました。

「織田信雄と羽柴秀吉の仲は日々険悪になっている。一方徳川は北条と同盟を結び後顧の憂いを断った。近い内に、また面倒が起きるぞ。まったく皆争わずにこうして休めばいいものを、天下とは魔性の女のようだな」
 

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