たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
「昌幸様は、天下に興味はないのですか? 大名の方は、皆天下を夢見るものだと思っておりましたが」
「私は日の本を丸ごと背負う器ではないさ。魔性に振り回されるのもごめんだ。静かに私を見守る信濃の地があれば、それでいい」
昌幸様ならば天下を取れると私は思うのですが、望まないというのならばそれでいいのでしょう。それに、私の生まれ育った信濃を昌幸様も大事にしてくださるのは、嬉しい事です。
「私も、信濃が好きです。だから、信濃を守ってくださる昌幸様には、とても感謝しております」
「村上や小笠原よりも、私が好きか?」
「はい! 生まれたその時から、ずっと真田に守られていましたから」
かつて信濃を治めていた他の国人の名を挙げられ、私はつい正直に答えてしまいました。が、昌幸様が好きとは、大それた答えです。他意はなかったのですが、私は身を小さくして俯きました。
「そうかそうか、好きなら良かった。なにせ私はお前の初めての男だからな。嫌われては思い出も汚れるだろう」
何気なく昌幸様はそんな事を言い出し笑いますが、私はもう顔を上げられなくなりました。この前の事を、思い出してしまったのです。