たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
昌幸様が通れば、当然人の目を引きます。しかし彼は構わず進み、並ぶ店に目を向け店主に声を掛けました。
「お葉、何を呆けている? お前は赤と黒、どちらが好きだ」
そう尋ねる昌幸様が指差していらっしゃるのは、赤と黒の反物。誰が見ても分かる高級な品に、私は青ざめてしまいました。
「な、何をする気なのですか、その反物」
きっとそれは、奥方様に対する贈り物です、そうに決まっています。と思わなければ、とても立っていられませんでした。しかし昌幸様は、首を傾げ当然のように言い放ちました。
「何って、お前への詫びの品だろう?」
「い、いりません! そのようなものいただいたら、手に取った瞬間心の臓が止まります!」
おそらく切れ端一つだけで、私が一年に使う金子の額を越えるような布です。袖を通す事を考えるだけで、泡を吹いてしまいそうです。ここだけは、流されて頷く訳には参りませんでした。
「黒や赤は、気に入らないか? ではこちらの青いのは……」
「色の問題ではありません! あの、詫びだと言うのなら、あちらがいいです!」