たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
私が指を差したのは、穏やかで少しふくよかな、私と同じ庶民の雰囲気が漂う店主がいる茶屋。あそこなら、卒倒せずにいられるかと思ったのです。
「色気より食い気、という事か。まだまだ子どもだな」
昌幸様は笑いながら私の頭を軽く叩き、店主にも似たような事を言います。食い意地の張った娘と思われるのは恥ずかしくて、私は一人店から遠ざかりました。
私は、初めて昌幸様とお会いした時より大きくなりました。もう子どもではありません。しかし彼から見れば、子どもなのでしょうか。大人なら、あのような反物を見ても肝を冷やさずいられるのでしょうか。
当主と奉公人、大人と子ども。あまりにかけ離れた私達は、なぜ今共に町へ出ているのでしょう。仕事も忘れここにいる自分に、私は溜め息を漏らしました。
「こら、一人でどこに行く気だ?」
すると昌幸様は私の肩に手を置き、声を掛けました。
「茶屋はあっちだぞ」
いつの間に足を進めていたのでしょうか、私は茶屋から逆の方に、大分歩いてしまったようです。昌幸様は私の手を引くと、そのまま茶屋へ向かい、店先の長椅子に腰掛けました。