たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
茶屋の店主は、真田の当主が客と分かると明らかに緊張した様子でした。私はその慌てた態度に何故か安心感を覚え、胸の奥にある靄を忘れました。
「この町に火を掛けたら、どのように燃えると思う?」
が、素朴な味の茶と団子には似合わぬ昌幸様の問いに、私は喉を詰まらせてしまいます。
「火……突然、どうしたのですか」
「上田は城だけでなく、城下町もこうして機能出来ている。暮らしを憂う必要はあるまい。とすれば、考えねばならんのは防衛についてだ」
城下町とは、賑わう分戦も共にする運命です。戦となれば皆避難はしますが、火を放たれれば後々大変なのは明らか。どのように燃えるかと聞かれても、燃えてほしくないとしか思えませんでした。
「昌幸様は、いつもそのような事を考えて町を視察しているのですか?」
私からは、ただぶらぶらと歩いているようにしか見えませんでした。そのように表面しか見えないから、子どもだと思われるのかもしれません。
私は瞼の裏に、燃える城下町を浮かべます。その中を歩くのは、とても辛い事でした。
「いや、私が軽率だったな。旨い茶のつまみにはならん話だった」