たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
昌幸様は団子を頬張ると同時に、私の腰の下辺り、いわゆる尻に、手を伸ばし撫でました。
「やはり一番のつまみは若い娘の尻だな。団子と比べどちらが張りがあるか……」
さわさわと這う感触に、私は思わず跳ね上がりそうになります。が、相手は当主でここは街道沿いの茶屋。昌幸様に恥を掻かせるような態度は取れません。
「お、奥方様が怒ります」
「なに、あれはこのくらいで怒るほど小さな女ではない。それに、今さらだろう?」
尻から手が離れたのは助かりましたが、今度は顎を取られからかうように顔を近付けられます。確かに、今さらな苦言です。私は初めてを、昌幸様に奪われてしまっているのですから。
「尻は団子だが、顔は蛸だな」
昌幸様の悪戯めいた笑いに、私は何も返せず唇を噛むしかありませんでした。
その後も昌幸様は私を連れ回し、日が暮れる頃城への帰路に着きました。抜け道に続く塀の前で昌幸様はふと振り返ると、耳打ちしたのです。
「初めての逢い引きも、私が奪ってしまったな」
耳元で囁かれる甘美な響き。それに私が何か言うより早く、昌幸様は私の唇を奪いました。