たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
「んっ……」
愛しい人と触れるという事は、どうしてこうも心を動かすのでしょう。奥方様がどうこうと言う資格など、私にはありません。いつまでもこうしていたいと思う身勝手な気持ちが、昌幸様の背に縋ってしまいました。
しかし、昌幸様はそれ以上の事をする訳でもなく、私から身を離しました。そして思考が定まらず惚ける私に手を振ると、一人先に城の中へと戻っていきました。
「昌幸様……」
私は俯こうとして、気付きました。頭が、なんだか不自然に重いのです。手を伸ばしてみると、そこには覚えのないものが挿さっていました。
「これは」
抜き取ってみれば、それは銀の簪でした。決して派手ではありませんが、桜の花びらを模した淡い桃色の飾りが、私の心をくすぐる品です。昌幸様が先程の口づけの時に、知らん顔で挿したのでしょう。
一体、いつこのような物を買ったのか。共に過ごしたはずなのに、私にはまったく見当がつきませんでした。おそらくこれは、詫びと口止めの品なのでしょう。
あの人はどうして私を虜にする事を、平然とやってのけるのでしょうか。口づけだけでないときめきは、なかなか収まってくれませんでした。