たゆたう草舟
第3章 誤解と裏目とまた誤解
口にしてはならない想いは、胸に募るばかり。私は簪を懐にしまうと、長い溜め息を漏らしました。
しかし、いつまでも塀を相手に悶えている訳にもいきません。私も城の中に戻れば、やけに神妙な顔をした信繁様と出くわしました。
「信繁様、どうなされました?」
「お葉……その、だな」
信繁様は私から目を逸らし頭をかきむしると、突然頭を下げて大声を上げました。
「すまない! 俺は、お前を妹としか思えないのだ!」
「……はい?」
「お葉が俺を好いていたなど、全く気付かなかった。だが俺は、そういう気持ちで接し今の関係を崩すのは、良くないと思うのだ」
「いえ、あの、突然何を……?」
「誤魔化して逃げてはならない! 申し訳ないが、俺の事は忘れて幸せになってくれ!」
信繁様は私の話を聞かず、言いたい事だけ言うと走り去ってしまいました。
「……え?」
私はしばらく放心し、それから気付きました。信明様とのやりとりが、どこかで信繁様の耳に入ってしまったのでしょう。私は、異性としては好いていない信繁様に、振られてしまったのです。