たゆたう草舟
第4章 落葉の風
赤の艶やかな着物を着たその娘は、ずぶ濡れになった私を見ると水桶を放り出し頭を下げます。
「ご、ごめんなさい!」
おそらく、立ち止まった私に、この水桶を持った少女がぶつかってしまったのでしょう。だとすれば、悪いのはこんな往来で足を止めていた私です。
「いえ、私こそ申し訳ありませんでした。あなたこそお怪我はありませんか?」
彼女は見たところ、十三、四ぐらいでしょうか。私が悪いのに、さらに年下の娘を責める訳には参りません。少女は私の表情に安堵した顔を浮かべ、手拭いを渡しました。
「わたしは大丈夫です。本当にごめんなさい……これを使ってください」
少女の手拭いは、女性らしく甘い香りのするものでした。私はお言葉に甘えてそれで顔を拭きながら立ち上がります。
「わざわざすいません、手拭いは、洗ってお返ししますから」
「いえ、とんでもない! むしろわたしが、あなたの着物を洗います」
と言われても、着物をここで脱ぐ訳にもいきません。私が首を横に振ると、彼女も同じように首を振りました。
「そういう訳には参りません。わたしの家へ来てください!」