たゆたう草舟
第1章 月夜の草舟
川の流れを追っていけば、月も私達の後を追いました。しばらく歩き小さな池に出ると、彼は私を下ろし、腰を掛けたのです。
池には、先程流れていた舟が一つだけ浮かんでいました。たゆたう舟を見つめ、昌幸様は呟きました。
「生き残ったのは一番小さな舟だけか。他の舟は、途中で沈んでしまったようだ」
「あの葉っぱのお舟は、昌幸さまが作ったのですか?」
「ああ、小さな頃は、兄上達とよく作って遊んだものだ」
どうして今、屋敷を抜け出してまで彼は遊んでいたのでしょう。当時の私はその気持ちが分からなくて、ただ首を傾げるばかりでした。昌幸様は私に話すように、しかし私の答えは待たず、ぽつぽつと語りました。
「私は舟を作るのが上手でな、兄弟で誰よりも遠くまで流れる舟を作れたのだ。御屋形様が戯れに参加された時も私の舟の方がよく流れ、私はそれを誇らしく思ったものだ」
昌幸様は近くの草を一本引き抜くと、手際良く舟を作り、そしてそれを水の上に浮かべ、小さい波を立て送り出しました。
「どうして私の舟が遠くまで沈まず流れるか、分かるか?」
私が首を振ると、彼は苦笑いを浮かべます。