たゆたう草舟
第1章 月夜の草舟
「私の舟は、小さいのだよ。兄上も御屋形様も、大きな舟を作ろうとしていた。だから重くなり、沈んでしまったのだ」
私はこのような遊びをしないから、草の舟の事など何一つ知りません。そうなのかと感心し頷くと、小さな葉っぱを一枚手に取ってみました。そして見よう見まねで舟を作り、浮かべてみましたが、それはすぐに沈んでしまったのです。
「底に穴が空いている。それではそもそも浮かないな」
昌幸様に指摘されると、なんだか悔しくて、私はもう一度舟を作りました。今度は丁寧に、穴が空かないように。昌幸様はそんな私の拙い手を眺めながら、また私に向けた独り言を漏らしました。
「大きな舟を作れる兄上や御屋形様は、私より上手に見えた。しかし皆、私より早く沈んでしまったのだ。小さく軽い私だけが、未だにゆらゆらと浮かんでいる」
遠くまで向かう舟を自慢していたはずなのに、彼はまるでそれが罪のような言い方をします。彼が答えを求めていないと理解していましたが、私はそれが不思議なあまりに、つい口を挟んでしまったのです。
「あの、長いとか短いとか、そんなに大事なのですか?」