たゆたう草舟
第4章 落葉の風
私にそう語る信明様の頬は赤く、口元が緩んでいます。きっとかつての遺恨はもうなく、私はわだかまりを持たなくても良いのだと思いました。
「もう、あなた、今はのろけている場合ではないのよ。お葉さん、そんな訳だから、ゆっくり休んでちょうだいね」
須貝様の娘さんは、とても良さげな方でした。器量も私よりよっぽど良く、病身の私を嫌な顔一つせず受け入れてくださったのです。それならばお言葉に甘えてもいいかと、私が布団に身を預けたその時でした。
「信明様、大変です!」
また騒がしい足音が響き、信明様の部下らしき方が血相を変えて現れたのです。
「なんだ、病人の前で騒々しい」
「信明様に用があると来客が、しかしあのそれが」
「少し落ち着け! 来客とは、呼んでいた医者が来たのか?」
「違うんです、医者ではなく――」
「私だ」
慌てふためく部下を押しのけ、入ってきた人物。その顔を見れば、全員が呆気に取られ言葉を失ってしまいます。
「お葉、帰るぞ。信繁も心配している」
「昌幸様……!?」
昌幸様は私を抱き上げると、何も言わず立ち去ろうとします。が、信明様が呼び止めると、一応振り向きました。