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たゆたう草舟

第4章 落葉の風

 
「昌幸様、どうしてここへ!? お葉殿を連れて、どこに行くのです。彼女は病身であり、なにとぞご容赦を……」

「知っている、だから迎えに来たんだ。お前の対応が悪いとは言わんが、城の医者に診せた方がいいだろう」

「ならば、拙者が連れて行きます。このような些事で昌幸様のお手を煩わせる訳には参りません」

「結構だ。私がやると言っているのだから、口を挟むな」

 ぴしゃりと言い切られてしまえば、もう誰も何も言えませんでした。どうして私がここにいると知っていたのか。なぜ一介の奉公人である私を、昌幸様自らが迎えに来るのか。そしてなぜ、城の医者に診せるといった厚遇までなさるのか。全てが分かりません。

 しかし、久々に感じる昌幸様の温もりは、熱いのか寒いのかも分からない私の体を定めてくださった気がします。この温もりに身を任せれば大丈夫――任せてはならないと思う頭は、この時私にはありませんでした。

 昌幸様はなんの説明もなく、城内へと足を進めました。ですが、その足が信繁様の寝所へ向かうと、私もさすがに焦りを覚えました。

「昌幸様、ここは」

「見ての通り、信繁の部屋だが?」
 

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