たゆたう草舟
第1章 月夜の草舟
私はもう一度舟を池に放すと、昌幸様に目を向けました。私から何か言われると思っていなかったのか、その時彼は目を丸くし言葉を失っていました。
「流れる距離が長くても短くても、葉っぱが大きくても小さくても、みんなで遊んだら楽しいでしょう? みんなといっしょに遊んだ、という事が大事ではないかと思います」
私は城で働いているから、あまり友と遊ぶ事は出来ません。けれど全く暇がない訳ではなく、たまに町へ出掛ける事もあります。友と遊んだ時間に、いいも悪いもありません。一緒にいたくて、共に過ごした。これだけで充分なのです。
「お舟が沈んでも、きっとお屋形さまや信綱さまも、昌幸さまといっしょで楽しかったと思います。すぐ沈んだからいやだったなんて、思ってないです」
私が考えなしに放った言葉は、冷静に見えていた昌幸様の顔を歪ませました。彼はまた涙をこぼすと、私を抱き締めたのです。
「――そうだな、お前の言う通りだ。兄上達は……決して不幸ではなかった」
なぜ昌幸様が泣くのか、私は全てを汲み取れるほど大人ではありません。しかし私に縋りつき震える彼を見ていると胸が苦しくて、泣かないでほしいと、強く思ったのです。