たゆたう草舟
第4章 落葉の風
「あの……信繁様。この際ですからお伝えしますが、私が好いている方は、信繁様ではないのです」
どうせ外には出られません。聞いてもらえるかは分かりませんが、私は思い切って本当の事を打ち明けてみました。
「あの時は、名前を出してしまえばご迷惑が掛かると思い、黙っていたのです。それをどう誤解されたのか、信繁様と勘違いされてしまって……」
「そ、そうなのか? じゃあ、なぜ夜這いを」
「ですから、夜這いではありません。私はただ、ここに連れてこられただけなのです」
「連れてこられた……とは、誰に?」
ここで昌幸様の名を出して良いものか、私は少し悩みます。ですがこのような気まぐれを許される立場の人など思いつかず、私は結局素直に答えるしかありませんでした。
「昌幸様に……」
「父上が?」
信繁様は意外な名前に、顔を上げ私を見返しました。その表情に妙な疑いはなく、幼い頃から知る信繁様のまま。避けられているのはやはり心苦しかったので、普段通りの姿に私は安心感を覚えました。
「……父上が黒幕ならば、油断はならないぞ。何か、起こるかもしれない」