たゆたう草舟
第4章 落葉の風
信繁様は左右を見回し、辺りを確認します。
「たとえば天井裏に忍びがいる……なんてな」
そして上を見れば、天井から微かに聞こえた物音。その瞬間、信繁の顔が武士に変わります。
「まさか本当にっ、曲者!!」
信繁様が部屋の隅に置いてある刀に手を取ったのと、天井が崩れ黒装束の忍びが降りてくるのは、同時の事でした。
「きゃああっ!」
「お葉、お前は逃げろ!」
逃げろと言われても、殺気立つ忍びに足がすくみ、動く事も出来ません。一方、信繁様は私を背に庇い忍びと睨み合います。信繁様に、動揺や恐怖はないようでした。
「真田信繁、お命ちょうだいする!」
忍びが足を踏み出した、その時。天井から、また忍びが一人降ってきました。しかしその忍びは敵と信繁様の間に入ると、私達に叫びます。
「信繁様はお逃げを! ここは私が!」
おそらく、後に降りてきたのは真田の忍者なのでしょう。信繁様は頷くと、動けない私を横抱きにして、襖を蹴破りました。
「曲者だ、出合え!!」
信繁はその場から離れながら、人を呼びます。慌ただしく集まる真田の武士達を見つめながら、私は信繁様に抱えられたまま、城の奥へ連れて行かれました。