たゆたう草舟
第4章 落葉の風
「父上っ、一体どういう事ですか!!」
信繁様がやってきたのは、昌幸様のお部屋。ですが昌幸様は動じず、一人で囲碁を打ちながら顔も上げずに声だけで返しました。
「どういう事とは、何がだ?」
「忍びです! 敵の忍びを誘き出す餌に、拙者を使ったでしょう! しかも、拙者だけでなくお葉まで巻き込んで――」
「分かっているなら話す事はない。その通り、敵の忍びがうろついていたから、お前達を餌に使っただけだ。今日はもう終わったから、帰って良いぞ」
「拙者だけなら構いません、しかし女人まで巻き込むのはいかがなものですか? 一体なぜ、関係のないお葉まで巻き込んだのです」
昌幸様は溜め息を一つ吐くと、ようやく目をこちらに向けます。
「関係がないならば、わざわざその場に置いていくものか。分かった、明日話してやるから、今日は戻れ。あまり遅くまで女人を連れ回すな」
「自分が危険に巻き込んで、調子のいい事を」
「信繁様、いいんです。今は、戻りましょう」
信繁様はしばらく納得できずに立ちすくんでいましたが、やがて引き返しました。