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たゆたう草舟

第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く

 
「え……? でも、私、あの日は本当に偶然外に行ったんです。誰かに外へ行くとも話してませんし」

「そうだな、お前があの日外に出たのは、本当に偶然だ。いや、想定外だった、と言うべきだな」

「想定外……?」

「そう、事件が起こったのは、偶然の結果ではない。皆が少しずつ想定外を起こしたためだと言えよう。まずお葉が城を突発的に抜け出してしまった。これが私の想定外だった」

 小さな歯車でしかない私が抜け出す事で、一体何が狂うのか。私は分からず、ただ昌幸様の話に耳を傾けました。

「想定外の外出であったため、お葉に監視を付ける手筈が遅れてしまった。そのために、志乃と名乗る徳川の忍びが、お葉に接触してしまった」

「お志乃さんが、徳川の忍び!?」

「そう、お前をさらうよう命じられ、近付いた忍びだ。奴は偶然を装い、水を被せてお前を連れ出した。そして、いかなる手段を取ったかは知らないが、毒を使いお前の意識を奪ったのだ」

「ま、待ってください! どうして徳川の忍びが、私をさらうのですか! 私は、この信濃を出た事もなければ、徳川の人間と出会った事もありませ……」
 

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