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たゆたう草舟

第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く

 
 そこで私は、徳川から嫁いできた須貝様の娘を思い出しました。須貝様の娘の夫である信明様は、私と因縁のあったお方。もし過去の話を彼女が知り、私を憎く思っていたら――

「だが徳川の忍びも、また想定外を起こした。毒を使った事を雇い主に叱責されたのだ。お葉の一族は、病で取り潰しになっている。いくら解毒の術を知っているとはいえ、体に影響をもたらす事を雇い主は良しとしなかったのだ」

「それで、私は信明様の屋敷に移されたと?」

「そして最後の想定外は、私だ。私が駆け付けお葉を連れて行けば、それを断り引き止める訳にはいかない。忍びを信じ預けていれば目的は達成できただろうに、墓穴を掘ってしまった」

「そんなにも奥方様に恨まれていたなんて……私のせいで、こんな事に」

 ですが昌幸様は首を傾げ、私に想定外の言葉を掛けます。

「奥方様? まさかお前、犯人は須貝の娘だと思っているのか?」

「ち、違うのですか? 私が以前信明様の関心を得ていたから、快く思わず殺そうとしたのでは」

「忘れたのか? 忍びは、どこで襲撃してきた」

 忘れるはずがありません。私が答えようとすると、今まで黙っていた信繁様が、拳を震わせながら怒鳴りました。
 

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