たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
「まさか、信明殿……あなたが、俺を陥れようとしたのか! 一体なぜ、俺達は仲間ではなかったのか!」
あの時襲われたのは、信繁様の寝所。そして敵の忍びが命を狙ったのも、信繁様でした。
「仲間、だと? 貴様に……何が分かる! 俺からお葉を奪ったくせに、当てつけのように見合いなどと馬鹿にして!」
拘束された信明様は、背筋が凍るような恐ろしい眼差しで、信繁様を睨みます。信繁様も信明様のそんな表情は初めて見たのでしょう。戸惑い、言葉を失ったようでした。
「俺が振られるのを見て嘲笑うために、お葉と会わせたのだろう! お葉は妹だと言いながら、貴様はあの日何をするつもりだった!! 父親まで使って俺の元からお葉を連れ出して、朝まで抱くつもりだったのだろう!!」
「そんなつもりではない! 大体あの日俺の部屋にお葉がいたのは、俺の指示ではないし――」
「うるさい、黙れっ!! 憎らしや……その顔を八つ裂きにしてやるっ、信繁!!」
信明様が拘束されながらも立ち上がろうとしたその時、昌幸様の扇子が飛び、信明様の眉間に直撃しました。そして彼が怯むと昌幸様は怒鳴り、立ち上がって彼の背を踏みつけたのです。