たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
「昌幸様、それでは、信明様が謀反を図った原因は……私、なのですね」
信明様が信繁様を恨んだのは、私が信繁様を好いていると思ったから。とすれば、禍根は私です。あの時きちんと説明すれば、酷い言葉を掛けなければ、信繁様を危険に晒す事も、昌幸様にご迷惑を掛ける事もなかったはずなのです。
私がうなだれると、信繁様が私の肩を押さえ真っ直ぐにおっしゃいました。
「馬鹿を言うな! お前が悪い事など何もない、俺が出しゃばり余計な真似をしたせいだ」
ですが昌幸様は、信繁様の言葉を遮り首を振ります。
「いや、此度の原因はお葉、お前だ。聞けばお前、人前で山田を嫌いだと罵倒したそうじゃないか。好いた女に侮辱され、へし折れた矜持が恨みにすり替わったんだろう」
「父上!」
「山田を歪ませ、離反させた罪、放置する訳にはいかない。お葉、分かっているな」
昌幸様は底の読めない無の表情で、私に告げました。時には私へ子どもじみた笑みを見せてくださったり、私の全てをさらうような色気を見せてくださった昌幸様を思い出せば、今の乾いた表情は私の胸を抉りました。