たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
「――父上、しかし拙者も、お葉の命まで奪うのは納得がいきません」
初めに声を上げたのは、信繁様でした。
「お葉に罪があるというなら、信明殿に恨まれるような態度を取った拙者にも、罪があります。お葉の首を取るのであれば、拙者も切腹し首を差し出しましょう」
「信繁様!」
「お葉、お前は我が妹にも等しい存在だ。俺の命に代えても、殺させたりするものか」
信繁様のお心遣いに、私は涙が零れそうになります。信繁様とて私のせいで命まで狙われたというのに、それを責めるような様子はありませんでした。
「昌幸様! 信繁様には、何一つ罪などございません。責任は全て私にあります!」
「お葉、それでは助命の意味がない!」
「信繁様がここまで私を思って頭を下げてくださるのに、私がそれに甘える訳にはいきません。私は真田の奉公人、主君や皆様を支えるための生き物です」
すると昌幸様は手を二度叩き、私達を制します。そして呆れ顔で、思いもよらぬ事を口にされたのです。
「あのな、私がいつ、お葉に首を斬れと命じた?」
「え?」
「お前の気持ちは分かった、とは言ったが、では首を斬れとは言っていないぞ」