たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
昌幸様が姿勢を崩し頭を抱えると、信繁様は肩を震わせました。
「父上……また、そのような屁理屈で人を弄んだのですか!」
「考えてもみろ、女首を寄越されたところで、なんの益になる? 真田は女子供をも虐殺する非道だと悪評が立つだけだ。頼まれたって、首などいらんわ」
「しかし昌幸様、それでは私の罪はどうなるのですか!? お咎めなしとは参りません」
「そうだな、私が許すと言っても、お前は納得しないだろう。躊躇いもなく首を差し出すと言えるくらい、忠義ある娘だからな」
昌幸様は顎に手を当てしばし悩まれると、姿勢を正します。そして下された罰は、私にとって死と変わりないものでした。
「お葉、今後お前が真田へ仕える事を禁ずる。三日の内に荷物をまとめ、上田から退去するように」
「……かしこまりました。私の不手際で多大なご迷惑をお掛けしてしまった事、誠に申し訳ございませんでした」
信繁様はまだ何か言いたげな様子でしたが、私が承諾し頭を下げれば、昌幸様は私を下がらせました。
上田からの追放。身よりのない私は頼る場所もなく、先行きなど考えられません。