たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
そして、なにより苦しいのは、もう真田に仕える事は出来ないのだという事実。頭にそれが過ぎると、目の前が真っ暗になり足が底無しの沼に捕らわれたように動かなくなります。
しかし、それも全ては自分が招いた種。人の想いを軽んじた、私の罪です。
「――っ、う……」
景色が滲むのも、足が止まるのも全て、私のせい。罪に目を向けるのは苦しくて、私は城の隅で、罪の紛れる闇が迫るまで、延々と泣き続けました。
昌幸様は三日の内に立ち去るよう私に命じましたが、まとめる荷物など私にはありません。早く立ち去らなければ心が潰れてしまいそうで、その日の夜中に私は城を出ました。
しかし城門を抜けてすぐ、私は足を止めざるを得なくなりました。私を待ち構えていたかのように、昌幸様が立っていらしたのです。
「昌幸様、どうしてここに……」
昌幸様は私が被っていた笠を取り払うと、私の額を人差し指でつつきます。どうしたらいいのか分からずに私が放心していると、昌幸様は溜め息をこぼしました。
「こんな夜中に出て行って、夜盗に襲われたらどうする。この辺りは安全と言いたいが、万が一という事もあるだろう」