たゆたう草舟
第5章 月草の 消ぬべくも我は 迎え往く
一体私は、自分から何を言っているのでしょう。羞恥が勝り、私は昌幸様に抱き付いたままその胸に顔を埋めます。すると昌幸様は、耳元で囁きました。
「なるほど、褒められるというのは、悪くない。それで、他にはどう労る?」
「……美味しいものを食べるとか」
すると昌幸様は、私の顎を取り、口づけます。そして道から逸れて陰の方へ私を連れて行くと、私を木の背に押し付け、今度はもっと深く、食らい尽くすような口づけを交わしました。
「昌幸、様……」
「美味いものを食べるのも、悪くないな。このような褒美があるのなら、己を卑下する暇もなさそうだ」
悪戯めいた笑みに、私はふと思いました。
「昌幸様、分かっていてやっていませんか……?」
「分かっているとは、何をだ? 私がお葉の褒め言葉や口づけが欲しくて、わざと導いたと? 労る方法を口にしたのは、お前ではないか」
「それは、そうですが」
「全くもってその通りだ、よく分かったな。自分で自分を褒めるより、お前の方が活力になる。ほら、もっと私を労れ」
昌幸様は手を広げ、私の反応を待ちます。相も変わらず読めないお方ですが、私は一つだけはっきりと分かっていました。
これは、私に出来る最後の奉公、最後の温もり。私は手に握ったままの簪を頭に挿すと、昌幸様に自ら唇を重ねました。