たゆたう草舟
第6章 甲賀の時雨
「俺は薬売りだし、妊婦に良い薬も調合出来る。が、流石に産婆の経験はねぇ。産まれそうになったら、いつでも人の手を借りられる場所にいた方がいいだろう」
「いや、あの……そもそも私、身籠もっていませんけど」
突然何を言い出すかと思えば、あまりに飛んだ話で、私も返事が遅れてしまいました。
「な、なんだって? いや、まだ兆候がないだけで、危ないかもしれんだろう?」
「いや、本当に独り身です。なんでそんな話になったのか、よく分かりませんが」
「ええ!? だって、故郷にどうしても帰れなくなったというから、俺はてっきり身分違いの男と恋でもして、引き離されたのかと……」
「時雨さん、なかなか想像力が豊かですけど、違います」
彼は彼なりに、怪しい言動の私に気を遣っていたのです。そんな勘違いが起こるのも、私が事情を隠していたため。時雨さんは信頼出来る方です。話しても大丈夫だろうと思い立ち、私は真実を口にしました。
「私が国を出たのは……私の愚かで配慮のない言葉のせいで、さるお方を歪ませ皆様へ大きなご迷惑をお掛けした罰です。本来なら首を渡すところを、お優しい昌幸様の配慮で、追放となったのです」