たゆたう草舟
第6章 甲賀の時雨
時雨さんの故郷は、上田の城下町に比べれば小さいですが、行き交う人も多く、賑やかな町でした。彼の家は町外れ、山の近くにありました。
一人で暮らすにはなかなか広い家でしたが、中は埃っぽく蜘蛛の巣が張っていました。旅に出る間、家を守る人がいなかったのでしょう。
「さーて、まずは掃除といくか。これじゃ寝るところもない」
「掃除なら任せてください。お城では毎日床を磨き上げてきたんです」
「おう、頼りにしてるぞ!」
床が白くなるほど埃が溜まれば、掃除する前と後の違いが目に見えて分かります。見える成果は、私のやる気を奮い立たせました。夢中で掃除し、時雨さんに声を掛けられた頃には、もう日が傾いていたのです。
「お葉ちゃん、そろそろ飯時だぞ? 一度手を止めて、こっちにおいで」
時雨さんはいつの間にか食事を用意してくれたようで、声と同時に焼き魚の香ばしさが漂います。
「後は明日にして、今日は休みな。時間はたくさんあるんだ、ゆっくり行こうぜ」
この日は、結局一日中掃除をして終わりました。そして次の日からも、掃除は私の仕事となりました。