たゆたう草舟
第6章 甲賀の時雨
甲賀での暮らしは、上田で働いていた頃とさして変わりはありませんでした。朝起きて食事を作り、掃除を済ませ、買い出しに出る。そして夜になればまた食事を作り、明日に備える。山へ薬草を取りに行ったり、薬売りの手伝いをしたりと新鮮な事もありましたが、習慣が抜ける事はありませんでした。
大きな違いは、相手が城の皆様か、たった一人か、それだけです。時雨さんはどこかへ行商へ向かう様子もなく、町で細々と暮らし、また私も行く先を見出す事が出来ず、お世話になりっぱなしでした。
上田を出る時にはどうなるかと不安にかられましたが、私の日常は穏やかなものでした。そして秋が過ぎ冬が訪れ、私の運命を変えた年が終わりました。
正月は、雪と共に訪れました。枯れた寂しい土地を覆い隠す真っ白な雪は綺麗で、私は朝から玄関先から山を眺めていました。
「お葉ちゃん、正月そうそう、風邪引いちゃ困るよ」
すると時雨さんも外に出てきて、私の肩に厚手の羽織を掛けてくださいました。
「寒いのは慣れていますから、平気ですよ」
「しかし、なんだってこんな雪の日に外へ? 雪なんか、珍しくないだろうに」