たゆたう草舟
第6章 甲賀の時雨
真剣な眼差しは、やはりどこか昌幸様に似ています。曇りのない目を見れば疑いなど失礼だとすぐに分かるのに、私は昨年起こした事件と同じように、時雨さんへ酷い事を言ってしまいました。
「……ごめんなさい」
「いや、いいんだ。急な話で、混乱したんだろう? しっかりしているようで案外抜けてる、そんなお葉ちゃんが好きなんだよ」
真正直に言われると、視線のやり場がなく俯きそうになります。が、時雨さんは私の頬を取り、逃げる事を許しませんでした。
「武士やいい家柄の人間には、政の関係で必然的な縁もあるだろう。けれど、普通の民草は、大体偶然の積み重ねで生きていくもんさ」
「では、私と時雨さんも、偶然が積み重なった結果だと?」
「特別な人間と出会って、夫婦になるのは偶然じゃなくて――運命って言うんだよ、お葉ちゃん」
時雨さんは言葉と同時に身を寄せ、私の身構えもならないうちに唇を奪いました。胸の内は穏やかではなく情熱なのだと言わんばかりに激しく奪われ、言葉を噛み締めて考える頭を吹き飛ばされてしまいます。
「んっ……ぅ」
時雨さんは口づけたまま、腰に手を寄せ家の中に入ると、玄関でもつれ込み私を床に倒しました。