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スキをちょうだい。

第4章 不穏ナくうき


「偽物だよ。趣味の悪い合成だ」

「ほんとう…‥?」

 疑いの目を向けてくる梨恵に、彼は明るい調子で言った。

「当たり前じゃん! だいたい、こんなにかわいいカノジョがいるのに、どうして男なんかと、しかも、オレみたいなダサいヤツと浮気するんだ?」

 沈黙。

 雨の音が響いている。
 梨恵はずっと、俯いている。

 明るく装った分、気まずくなった航太は咳払いをして、居住まいを正した。

「環は」

 俯いたまま、梨恵は口を開いた。

「環は何も言わなかった」

 その声は涙に溢れていて、彼女の足元に、染みを作った。

「でも、気持ち悪いなら別れようって」

「え?」

 予想外の情報に、航太は思わず声をあげる。

 幸いに、梨恵には聞こえなかったようで、彼女は泣きながら、続けた。

「あたしは、月野くんを信じたいけど、環の態度が気になるの。あたし、あたし、もうわかんない。どうしたらいいの? ねぇ、月野くん」

 涙で濡れた瞳が、航太を見上げる。

「どうしよう」

 顔見知りの男子に、自分のこれからの行動を訊いてしまうほど、梨恵は混乱している様子だった。

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