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スキをちょうだい。

第5章 亀裂ノあいだ


「…‥それは」

 口を開いた環の声音は、冷め切っていた。
 思わず、身構える航太を、環はまっすぐに見つめる。

「あいつに吹き込まれたの」

 見たこともない冷めた瞳は、航太を萎縮させた。
 無言でいる彼に、環は諦めたように鼻で笑って、吐き捨てた。

「なんて、関係ないか」

 そして、何事もなかったかのように、いつも通りの笑みを浮かべた。


「じゃあね。月野」


 つきの。

 自分の名字が、嫌な響きに感じた。

 環のいなくなった教室は、とても色褪せていた。

 気づけば、世界が歪んで、溢れて、頬を滑り落ちていった。

ーこれでいい。自分で決めたのに。

 止まらなかった。
 嗚咽を殺して、泣き続けた。

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