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スキをちょうだい。

第5章 亀裂ノあいだ


「航太くん?」


 突然、かけられた声に顔をあげると、困惑した表情のかなでが立っていた。

「どうしたの? 何かあった?」
「いずも…‥」

 問いかけてくる彼を前に、航太は我慢していた全てを爆発させて、泣きじゃくった。

 そんな航太を、かなではただ微笑んで、そっと抱きしめた。

「大丈夫。キミにはボクがいるよ」

 空いた穴に、言葉が、声が染み込む。

 航太は温もりを求めて、かなでの肩を、自分の涙で濡らすのだった。

 しばらくして、落ち着きを取り戻した航太に、かなでは笑顔で提案した。
 
「ねぇ、今度デートしようよ!」
「で、デート?」

 航太が首を傾げると、彼は笑顔のまま、大きく頷いた。

「ボク、航太くんと遊びたいなぁ」

 だめ? と、上目遣いで見つめられて、思わず、言葉に詰まる。

 こうなったら断れないのが、彼の良いところであり、悪いところであった。

「わかった。いいよ」

 航太の答えに、かなでの瞳がパッと輝いた。

「本当に?! やったぁ!」

 子どものようにはしゃぐかなでに、航太は早くも笑っていた。


 環がいなくても、かなでといられれば幸せなような、そんな気持ちになっていた。

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