「先生、食べちゃっても良い?」
第3章 男子更衣室
葉月千尋。それが私の名前だ。
年は24歳で、職業は数学教師。
性格は真面目の代名詞の様だと周りからよく言われて生きてきた。
……そんな私が何故か突然、真面目街道から外れる様な非日常な世界へと引き込まれている。
その原因は確実にこの生徒。
「俺、キス魔だから☆」
「キスしたらもう二度と口聞きません!」
(何故曾根崎君が男子更衣室にいるのだろうか……)
ただ昼休みに男子更衣室の前の廊下を通っただけだった。
まさかドアから突然手が伸びてきて引き込まれるなんて……考えもせず、そのまま冷たいロッカーに背中を押し付けられいきなりキスされるなんて、予想外。
驚き過ぎて、顔を青ざめながら呆然と舌舐めずりする彼を見つめる事しか出来ない。
「いただきまーっす」
(ピンチだ……昼休みだから1時間はきっと誰も来ない)
だからといって逃げたいが、曽根崎君の力に敵わない事は昨日嫌な程思い知らされた。
という事は……キスを受け入れるしかないという事?
「……んっ! ……っ……んっ……」
唇同士が触れ合ったかと思うと、角度を変えながら何度も唇を食まれ、そのうち口内に舌が入ってくる。
ぬるりとした感触でそのまま舌同士暫く絡め合うと、舌先から糸を引きながら曽根崎君は唇をはなし、顔を火照らせる私を見ながら笑った。
「先生エロ」
「え、エロくないです……!」
「ウソ。可愛い」
(意地悪な事を言ったかと思えば、ドキドキする様な事を言って……)
曾根崎君の言葉に恥ずかしくなり、私はドアへ逃げようとする。
しかし、……すぐに手を掴まれ。
「ね? 今日の授業中、俺起きてたよ」
「10分だけでしょ……?」
「それでも頑張ったんだからご褒美ちょうだいよ、先生」
無邪気な曾根崎君の笑顔を見ると、私の固く縛った鎖がすんなりと解かれた様な気持ちになった。