「先生、食べちゃっても良い?」
第16章 特別室 その四
続けて耳元から聞こえてくる声は、相変わらず穏やかで。
「あのね、先生。仕事辞めたくなかったら無理しないで。日向先生からのメッセージを見て思ったんじゃないよ? ずっと言いたかったけど、言っちゃったら先生の決意を踏みにじっちゃう気がして言えなかったんだ」
「そうだったの……?」
「先生の数学の授業、本当に分かりやすくて、俺先生は教師に向いてると思う。だから他の生徒達の為にも……続けて欲しい」
その内だんだんと真剣になっていった。
……教師を辞めないで欲しいって、キョウ君から初めて言われた。
キョウ君から止めて貰えて嬉しいけど……でも、もう私の心は。
「……ゴメンね。私の気持ちは変わらない。今教師を辞めたって後悔しないから。でも、止めてくれてありがとう、キョウ君」
キョウ君と付き合い始めた頃から、本当は考えていた。
教師と生徒という事で、私達の恋愛が明るみになればキョウ君の未来を潰してしまう。
そんな事には絶対させたくなかった。
今はその本音を言うべきではないと思うけど、辞めて後悔しないというのは本音。
「……キョウ君、私と出会ってくれてありがとう」
もう一つ本音を呟くと、私はそのまままたキョウ君の唇に口付けを落とす。