バラードは君だけに
第7章 二人の彼
湊さんと、私の自宅マンションに来た。
「お母さん…」
母は居間のテーブルの前で、力なく座っていた。
「美羽…」
母の顔は化粧っ気もなく、泣き腫らした赤い目をしている。
そして、湊さんを見ると聞いた。
「あなたは…」
「吉野湊と申します。この度は弟の海斗が、ご主人に大変なおケガを負わせてしまい、心からお詫び申し上げます」
「そうでしたか…。美羽、何もかも警察の人から聞いたよ」
私は母の前に座った。
「お父さんの事、黙っててごめんなさい。とても言えなかったの…」
すると、母が私の手を取り両手でぎゅっと握ったのだ。
「謝るのはお母さんの方よ。ほんとに今までごめんなさい。悪い母親だったね…」
「お母さんっ…」
私は初めて母親らしい優しさに触れた気がして、胸が一杯になった。
「海斗が私を…私を守ってくれたの!」
「そう、美羽にそんないい人がいてくれて、ほんとに…良かった」
湊さんは私と母の会話を静かに見守っていた。