
デスサイズ
第3章 Episode3 挫折
生徒の多くは既に下校しており、特に部活動も無い日なので特別教室のある廊下は人気が無かった。
踊り場の近くにある美術室の扉を開き、中に入る。
(ん……? アイツは……)
広い教室の中で1人、玲二がキャンバスの前に座っている。
黒斗の存在にも気づいていない彼は、真剣な表情で目を閉じており、瞑想(めいそう)でもしているようだった。
「……ハアー」
深く息を吸って吐き出すと、傍らに置いてあったデッサン用の鉛筆を手に取り、キャンバスの前に掲げた。
「…………」
鉛筆を持つ手が僅かに震える。
「っ……ハ、ハアー……ハァッ」
苦しげな呼吸音が玲二の口から漏れると同時に、彼の額から大量の冷や汗が流れ落ちる。
手の震えは大きくなり、そこから伝染したように玲二の全身が小刻みに揺れ動く。
「おい」
その様子を見ていた黒斗は玲二に近づき、肩を掴んで声をかける。
すると玲二の震えは止まり、手から鉛筆が滑り落ちて、床に転がった。
「……あっ……月影先輩?」
ようやく黒斗に気づいた玲二は、冷や汗を拭って立ち上がる。
「ど、どうしたんですか? 今日は美術部の活動は休みですけど?」
青ざめた顔で、無理に笑顔をつくる玲二。
「知ってるし、別に美術部員でもない。下履きを取りに来たんだ」
素っ気なく答えると、黒斗は美術室内の探索を始めた。
机の下や後ろのロッカーなどを馴れた手つきで探る黒斗を、玲二はキョトンとしたまま見つめている。
