
夜が開けるまで
第5章 誤算
拓馬は少しイライラしたように窓の外を眺めた。
「保険の営業は第一次顧客を越えたところからが勝負よ。
やはり、飛び込みができないと顧客を広げる事は難しいのがこの世界なの」
由紀の言葉を拓馬は下を向いて聞いていた。
「バンドの活動忙しいのはわかるんだけど、一応、職業も持っているんだから
こちらも業績を上げないと、生活ができなくなるわ」
由紀の言葉に拓馬は大きなため息をついた。
「一緒にエリアを回ってみましょう。まだまだ可能性あるんだから」
「最近、忙しくてエリアを回れないんですよ」
拓馬は言葉を濁した。
「この世界は時間の自由がきいて便利だけど、自由にしすぎて仕事が疎かになる危険性もあるのよ」
由紀の説教じみた口調に、拓馬はムッとした表情で言った。
「少し考えさせて下さい」
拓馬はそう言うと応接室を出て行った。
