
夜が開けるまで
第3章 真夏の夜の夢
祭りの喧騒からはずれたマリーナのベンチに腰かけ、由紀はひとり暗い海を眺めていた。
海岸線に沿って煌めく街の夜景はかつて、100万ドルの夜景と呼ばれていた事もある。
今は一時の輝きは失われたが、それでも充分美しい夜景だ。
通行人のカップルが好奇な目で彼女を振り返って通り過ぎて行く。
夜更けの海を一人で眺める女もそうそういない。
「トレーナー、ですよね…?」
背後から、聞き覚えのある若い男の声がした。
振り向くと、白ダボ姿の拓馬がハァハァと息を切らしながら佇んでいた。
