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【S】―エス―01

第8章 記憶の鍵

 すぐ隣で聞こえた茜の言葉に、再度少年の隣に写っている人物を確認する。確かに、そう言われてみれば面影があった。


 写真の裏側を見ると、掠(かす)れたボールペン字でこう書かれていた。


 ――『刹那 7歳』


 弟の幼い頃の写真だ。


 なぜ刹那が茜の母親と共に写っているのかは分からない。だが、もう一度写真の弟を見て瞬矢は微笑み呟く。


「あいつも、昔はこんなふうに笑ってたんだな」


 写真に写る幼き弟の屈託のない笑顔に、ほんの少しだけ救われた気がした。


 ふと茜へと視線を移す。が、すでに茜は瓦礫が残る焼け跡の中心部へ歩を進めていた。


「茜?」


「この場所……知ってる」


 立ち止まり一点を見据え呟く。恐らくドアがあったであろう、ぽっかり縦長の口を空けた瓦礫の一部を見つめていた。


「もしかして、例の夢の?」


 こくりと頷き存在しないドアを開けるように手を前へ差し出す。


 すると突如、茜が持っていた時計のようなものから「ピ、ピピピッ――」とけたたましい電子音が鳴る。


 茜はそれを投げ捨て、瞬矢は横へ飛びのく。銀色の放物線を描き、砂塵をあげて地面へ落下した。
 

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