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【S】―エス―01

第8章 記憶の鍵

 恐らく、この地下の冷たく陰鬱な空気に気圧されてしまったのだろう。


 瞬矢とて、それが分からなくもない。


 だが安にそれを良しとしてしまえば、今まで自らの中で築き上げてきた何かが崩れてしまう。そんな気がしたのだ。


 階段を下りきったところで、またも目の前に金属製のドアが立ち塞がる。


 ――『【鍵】を大切に』


 ふっと瞬矢の脳裏に、櫻井の言葉がよぎる。


(【鍵】、まさか……)


 手にしていた銀色のそれに目をやる。先ほど同様、ドアの前に文字盤を翳(かざ)す。


 相変わらずのけたたましい電子音と共に、重いドアの鍵は解錠される。


 空気を吐き出す音がし、瞬矢たちの髪をふわりと撫でた。


 予想以上に部屋は広く、だがとても荒んでおり、お世辞にも【綺麗】とは形容し難い。


 薬品と埃と黴臭さに混じり、わずかだが血の臭気が鼻腔を掠める。


 照らし出された壁は部屋の中心からひび割れ、至るところに血痕がついている。


 床には、割れた試験管やガラス片などが散らばっていた。歩く度にジャリジャリと砕けたガラスを踏みしめる音が響く。
 

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