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【S】―エス―01

第8章 記憶の鍵

 吐き気に襲われ、瞬矢はよろめき体をぶつけながら階段を這い上がる。


 地面からせり上がったコンクリートのドアに手をつき、浅く単発的な呼吸で新鮮な空気を肺に送り込む。


 やがて頭痛も嘔吐感も収まり、ある別の思いが瞬矢の胸中を支配する。


 疑心、葛藤、自己嫌悪――。


 混在となって渦巻くそれは確実に彼の心を蝕み、締め上げた。


 秋の夕暮れの爽やかな風が吹き、辺りの木々をそよがせる。


「うぅ……」


 胸の辺りを押さえ、小さく呻き声を漏らす。地上はすでに黄昏が迫っていた。


「うああぁーっ!」


 どさりと力なく膝をつき、画像の少年のように天を仰ぎ叫ぶ。その際、地面から巻き上がった煤がさらさらと風に舞った。


 実験、薬品、【S‐06】――。


 ようやく全てを理解し、じわり視界が霞む。


「はぁ……っ」


 ひとつ乾いた息を吐き、視線は空を游いだ。滲む視界の先を、淡い黄金に色づいた雲がゆっくりと流れゆく。


(そうか、そうだったのか……)


 項垂れ手元の写真に視線を送る。


 そうしたことにより、ぽたり、ぽたりと重力に従い温かな水滴が落ち、煤けた地面に小さな円形の染みを作る。


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